コラム

最近、これまでに経験したことのないような大雨のニュースが増えました。
神戸市に住む私も、他人事ではないと感じています。

特にマンションの1階や2階といった低層階にお住まいの方の中には、「もし川が氾濫したら、うちの部屋は大丈夫だろうか？」と不安に思われている方もいらっしゃるかもしれませんね。

この記事では、マンション低層階の浸水リスクと、いざという時に命を守る「垂直避難」について、ポイントを絞って分かりやすく解説していきます。
少しの知識と準備で、大きな安心を手に入れることができますよ。

まずは知ることから始めよう！お住まいのマンションの浸水リスク

何事も現状把握から、というのは私たち技術者の基本です。
まずはご自身の住まいが、どのくらいの浸水リスクを抱えているのかを知ることから始めましょう。

ポイント1：ハザードマップで「我が家」の危険度をチェック

「ハザードマップ」という言葉は、ニュースなどで耳にしたことがあるかもしれませんね。
これは、お住まいの地域でどのような災害が、どのくらいの規模で起こりうるのかを地図上に示したものです。

「なんだか難しそう…」と感じるかもしれませんが、見るべきポイントは、実はたったの2つです。

1. 自宅周辺が何色に塗られているか（想定される浸水の深さ）
2. いざという時の避難所の場所はどこか

国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」なら、全国どこにお住まいでも、ご自宅の住所を入力するだけで簡単に確認できます。
まずは一度、ご家族と一緒にアクセスしてみてください。

ポイント2：浸水深「50cm」が生活を脅かす一つの目安

ハザードマップで「うちの周りは50cmくらいの浸水か」と分かったとします。
膝くらいの高さ、と聞くと大したことがないように思えるかもしれません。

しかし、実はこれが避難の可否を分ける大きな境目になるんです。
具体的には、以下のような事態を引き起こす可能性があります。

このように、たった50cmの浸水でも、生活は一気に麻痺してしまうというわけです。

なぜ「垂直避難」が重要なのか？命を守るための基本知識

浸水のリスクが分かったところで、次はいざという時の行動、「避難」についてです。
特に都市部のマンションでは「垂直避難」が基本となります。

「垂直避難」とは？水平避難との違い

避難には、大きく分けて2つの種類があります。

• 水平避難：避難所など、今いる場所から離れた安全な場所へ移動すること。
• 垂直避難：今いる建物の中で、より安全な上層階へ移動すること。

垂直避難は、いわば「建物という船の中で、より安全な上層階へ移動すること」のようなものです。
大雨で周囲がすでに冠水しているような状況では、無理に外へ出る「水平避難」はかえって危険な場合があります。
そのため、頑丈な鉄筋コンクリート造のマンションなどでは、自宅の上階や、同じマンション内の安全な場所へ移動する「垂直避難」が原則となるのです。

避難のタイミングを逃さない！警戒レベルの正しい理解

「じゃあ、いつ垂直避難を始めればいいの？」という疑問が湧きますよね。
その判断基準となるのが、気象庁や自治体から発表される「警戒レベル」です。

警戒レベル	状況と取るべき行動
レベル3	高齢者等避難：避難に時間がかかる高齢者や障害のある方は避難を開始。その他の方も準備を。
レベル4	避難指示：危険な場所にいる全員が避難するタイミング。速やかに避難行動に移りましょう。
レベル5	緊急安全確保：すでに災害が発生・切迫。命を守るための最善の行動を取ってください。

特にマンション低層階にお住まいの方は、警戒レベル4「避難指示」が発令されたら、速やかに上階への垂直避難を開始する、というのが命を守るための基本ルールです。
レベル5になってからでは、もう手遅れかもしれません。

【安全のプロが解説】今日からできる！垂直避難のための3つの準備

ここからは、私たち安全機材のプロの視点から、今日からすぐに始められる垂直避難のための具体的な準備を3つのステップでご紹介します。

準備1：非常用持ち出し袋、「高さ」を意識した中身の工夫

非常用持ち出し袋は準備されている方も多いと思いますが、垂直避難を想定すると、少し中身を工夫する必要があります。
停電した建物の上階へ移動し、そこで救助を待つ状況を想像してみてください。

携帯ラジオ

停電しても正確な情報を得るための生命線です。

ヘッドライト

両手が空くので、暗い階段を安全に上り下りするのに非常に役立ちます。

モバイルバッテリー

スマホの充電が切れると、情報収集も外部との連絡もできなくなります。必須アイテムですよ。

携帯トイレ

断水するとマンションのトイレは使えなくなります。

常備薬やおくすり手帳

持病のある方は絶対に忘れないでください。

一般的な持ち出し袋に、これらの「高さ」と「停電」を意識したアイテムを加えることがポイントです。

準備2：水の侵入を少しでも遅らせる「家庭でできる浸水対策」

浸水を完璧に防ぐのは難しいですが、避難の時間を稼ぐことが何より大切です。
そのための工夫が、土のうの代わりになる「水のう」です。

作り方はとても簡単です。

1. 45リットル程度のゴミ袋を二重に重ねます。
2. 中に半分くらいの水を入れ、空気を抜いて口を固く縛ります。
3. これを玄関ドアの前や、水の侵入が考えられる窓の前に隙間なく並べます。

また、トイレの便器の中や、お風呂・洗濯機の排水口の上にこの「水のう」を置くことで、下水の逆流を防ぐ効果も期待できます。
ぜひ一度、作り方を試してみてください。

準備3：万が一の脱出経路を確保する「安全機材」の知識

ベランダにある、あの四角いハッチ。
開けたことはありますか？

あれは「避難はしご」が格納されているハッチで、火災や災害時に下の階へ避難するための、文字通り命綱になる設備なんです。
私たちのような専門メーカーが、いざという時に確実に機能するように設計・製造しています。

実は、私たち特殊梯子製作所も、まさにこの「命綱」を造っているメーカーなんです。
例えば、私たちの『QQラダー』という避難はしごは、国の厳しい安全基準である国家検定に合格しているのはもちろん、お子さんや高齢の方でも安心して使えるように、揺れやねじれを極力抑える構造（突子付き構造）になっています。

【避難はしごを選ぶ・確認する際の3つのポイント】

1. 国の安全基準（国家検定）を満たしているか？

命を預けるものですから、信頼性の証である「国家検定合格品」かどうかは必ず確認したいポイントです。

2. 誰でも使いやすい工夫がされているか？

緊急時に使うものですから、安定性や使いやすさは非常に重要です。揺れにくい構造か、フックは自宅の窓やベランダにしっかり掛かるか、といった点も確認しておくと安心ですよ。

3. 設置場所と使い方を把握しているか？

これが一番大切かもしれません。自宅のどこに設置されているか、どうやって使うのかをご家族全員で共有しておく。これが、ご自身の命を守る最後の砦になるかもしれないのです。

マンションに備え付けの避難はしごの点検は管理組合の役割ですが、「自分の命を守る道具」として、ぜひ一度関心を持ってみてください。

よくある質問（FAQ）

Q: マンションの1階に住んでいます。避難はしごがないのですが、どうすれば良いですか？

A: まずは管理組合や大家さんに、共用部への避難経路や避難器具の設置状況を確認しましょう。
その上で、上階の住民の方と日頃からコミュニケーションを取り、いざという時に一時的に避難させてもらえるようお願いしておく「共助」が非常に重要です。

それに加えて、最近では私たちの『QQラダー』のように、個人で備えることができるコンパクトな避難はしごもあります。万が一の備えとして、そうした選択肢を検討してみるのも一つの手です。

Q: 浸水対策で火災保険は使えますか？

A: 火災保険に「水災補償」が付帯していれば、保険金が支払われる可能性があります。
ただし、「床上浸水または地盤面から45cm以上の浸水」といった支払基準があるため、ご自身の契約内容を保険証券で確認することが重要です。
つまり、保険証券の「水災」という項目に丸が付いているかどうかがポイントです。

Q: ペットを連れて垂直避難しても良いのでしょうか？

A: もちろんです。
ペットも大切な家族の一員ですから、必ず一緒に避難してください。
ただし、避難先となる上階のお宅や共用スペースでのルールを事前に確認しておくことが大切です。
ペット用の非常食やトイレ用品も忘れずに準備しておきましょう。

Q: 小さな子供がいるのですが、避難で気をつけることは？

A: お子さんを安全に移動させることを最優先に考えてください。
おんぶ紐など両手が空くアイテムがあると、荷物を持ったり手すりにつかまったりできるので非常に便利です。
また、お子さんを不安にさせないよう、「探検ゲームだよ」などと声をかけながら、落ち着いて行動することが大切です。

Q: 排水溝から水が逆流してくることはありますか？

A: はい、実際に多くの被害が報告されています。
大雨で下水道の処理能力を超えると、お風呂場や洗濯機の排水溝、トイレなどから水が逆流してくることがあります。
これを防ぐためにも、先ほどご紹介した、ゴミ袋を二重にして水を入れた「水のう」を排水溝の上に置く対策が有効です。

まとめ

今回は、マンション低層階の浸水リスクと垂直避難についてお話ししましたが、いかがでしたでしょうか。

要点を振り返ってみましょう。

• まずはハザードマップで自宅のリスクを知ることから始める。
• 浸水50cmは、避難の可否を分ける危険なラインと心得る。
• 警戒レベル4が発令されたら、速やかに上階への「垂直避難」を開始する。
• 持ち出し袋や水のう、避難はしごの確認など、事前の準備が命を守る。

私たち技術者は、常に「最悪の事態」を想定して設計や準備をします。
それは、万が一の時に人や物を確実に守るためです。

皆さんの暮らしも同じで、「備えあれば憂いなし」という言葉通り、事前の準備がいざという時の安心に直結します。
この記事が、皆さんの防災意識を高め、具体的な行動を始めるきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

まずは第一歩として、ご家族と一緒にハザードマップを開いてみることから始めてみませんか。

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