2026年2月19日
なぜ梯子での作業禁止? 神戸の技術屋が明かす、本当の理由と現場でできる安全対策
現場でふと気になることはありませんか?
“梯子での作業はダメ”と言われるけれど、なぜダメなのか、実はよくわかっていない——そんな方、意外と多いんです。
この記事では、梯子(移動はしご)の上での作業がなぜ禁止されているのか、製造側の視点も交えながら丁寧に解説します。
法律の根拠から事故の実態、「どこまでならOKか」の境界線、現場で今日から実践できる安全対策まで、順を追ってお伝えしますので、ぜひ最後まお読みください。
【この記事の結論】梯子作業の3つの鉄則
- 原則「作業禁止」
梯子は「昇り降りする道具」であり、作業台ではありません。設計思想も法律(安衛則)も、作業ではなく昇降を目的としています。- 例外は「代替手段がない場合のみ」
足場や高所作業車が使えない状況に限り、4つの必須条件(①安定した設置場所、②転移防止措置、③安全ブロック、④補助者)を全て満たせば使用が認められます。- 「慣れ」が最大の敵
事故の多くは「これくらい大丈夫」という油断から発生します。特に経験豊富なベテランほど、使用前点検や3点支持の徹底が不可欠です。


なぜ「梯子での作業」は禁止?法律と設計思想から紐解く本当の理由
「昇降用」と「作業用」、梯子はどちらの道具?
「梯子は道具なんだから、使い方次第で何でもできるはず」と思われることがあるかもしれません。でも実は、道具には設計の時点から“使っていいこと”と”使ってはいけないこと”が決まっているんです。
梯子(移動はしご)は、JIS規格(JIS S1121)において「自立せず、立てかけて高所への昇降に使用するもの」と定義されています。つまり設計思想の出発点が「人が昇り降りするための設備」であって、「人が乗った状態で作業するための台」ではないということです。
製造現場にいると、この違いが製品の構造に如実に表れているのがよくわかります。
- 梯子の踏ざんの幅は最低限の足がかりしかなく、作業するには狭すぎる
- 体をひねる、工具を使う、物を持つといった作業動作を想定した形状になっていない
- 両手が自由に使えない(片手は梯子を掴む必要がある)
- 体重が1点に集中しやすく、不意のバランス崩れに対応できない
自動車に例えると、「走るための車を、わざわざ停めてテーブル代わりに使う」ようなイメージです。物理的には乗れても、それは設計意図から大きく外れた使い方なんです。
法律は何を禁止していて、何を許可しているのか
具体的に法律の話をしましょう。労働安全衛生規則(安衛則)において、移動はしごに関係する条文は主に以下の通りです。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 第526条 | 高さ1.5mを超える箇所での作業に安全な昇降設備を設けること |
| 第527条 | 移動はしごの構造基準(幅30cm以上、すべり止め装置など) |
| 第518・519条 | 高さ2m以上での作業床+手すり等の設置を原則とする |
ここでポイントなのは、「移動はしごでの作業が完全に禁止されている」わけではないということです。より正確に言えば、「はしごは昇降用の設備であり、原則として作業床の代わりにはなれない」というのが法律の趣旨です。
厚生労働省のガイドラインも「はしごや脚立は、足元が不安定になりやすく危険。まず代わりとなる床面の広いローリングタワーや作業台などの使用を検討しましょう」としています。つまり「まずは代替手段を探すこと」が大前提で、やむを得ない場合のみ条件付きで使用が認められるという考え方です。
数字で見るはしご転落事故の実態。「慣れ」が最大のリスク
毎年多くの人が「はしご等」から転落死亡している
「そんな大げさな……」と思った方、ぜひ数字を見てください。
厚生労働省の令和5年(2023年)労働災害発生状況によると、墜落・転落による死亡者数は204人で、全死亡者数(755人)の約27%を占め、事故の型別で最多でした。なお、令和5年の公式資料では、墜落・転落災害の起因物(はしご、足場など)別の詳細な統計は公表されていませんが、過去の統計では「はしご」や「脚立」が主要な原因の一つとして挙げられています。
全国仮設安全事業協同組合「建設労働災害の実情」でも、建設業における墜落・転落の割合が毎年40%前後を占めることが示されています。
NITE(製品評価技術基盤機構)が分析したはしごの転落死亡事故44件のデータも非常に示唆に富んでいます。事故の典型的なパターンが「不安定な場所にはしごを設置し、さらにはしご上で作業をしていた」という複合的な誤使用だったというんです。
一つひとつの行動はちょっとした油断でも、重なると重大事故につながる——これが梯子事故の怖いところです。
「ベテランほど危ない」——慣れが生む油断のメカニズム
以前、中小企業の現場を何度も訪問する機会がありました。そこで気づいたのが、事故に遭いやすいのが必ずしも新人ではないということです。
NITEのデータでも、はしご・脚立の事故は50歳代以上が全体の6割以上を占めています。なぜ経験豊富なベテランほど危ないのか。その理由は「慣れ」にあります。
「これくらいは大丈夫」という感覚が体に染みついてしまうと、使用前点検を省いたり、補助者なしでの使用が当たり前になったりします。はしごや脚立はとても身近な道具なので、危険性を実感しにくいという心理的な盲点があるんです。
さらに、年齢とともに筋力やバランス感覚が低下することも大きな要因です。若いころは問題なかった動作でも、50代・60代になると同じことができるとは限りません。「できていた」という過去の経験が、かえって判断を誤らせることがあるわけです。
「ここまではOK」境界線マニュアル。例外的に梯子が使える条件とは
完全禁止ではない!場所的制約がある場合の例外規定
「では、梯子は一切使ってはいけないのか?」というと、そうではありません。足場・高所作業車・ローリングタワーなどの代替手段が、場所的な制約から設置できない場合に限り、条件付きでの使用が認められています。
具体的にどんな場面が該当するか、例を挙げてみましょう。
- マンホール・深礎工・杭工などの昇降(狭い縦穴で足場が組めない)
- 足場設置スペースがない基礎地中梁等の昇降
- 鉄骨建方時に鉄骨柱へ設置する昇降用はしご
- ハッチ式布板に付属のはしごを使った昇降
大切なのは「例外はあくまで『ほかに選択肢がない場合のみ』」という点です。ここを勘違いして「例外があるなら普段から梯子でもいいや」と解釈してしまうのが一番危険なパターンです。
例外使用時に必須の安全条件
やむを得ず梯子を使用しなければならない場面では、以下の安全条件を必ず守る必要があります。現場での実用性を重視してポイントを整理しました。
- 安定した水平で堅固な場所に設置する(泥濘地・砂利・傾斜面はNG)
- 転移防止措置を実施する(足元固定金具の使用、上部のロープ固定など)
- 昇降高さ2m以上では安全ブロックを設置する(専用取付枠を使うこと)
- 補助者を必ず配置する(はしごの脚元を支える役割)
この4つはセットで考えてください。「安全ブロックはあるけど補助者がいない」「補助者はいるけど固定措置がない」、どれが欠けても安全とはいえません。
以下に、OK・NGの対比を表でまとめました。
| 確認項目 | OK例 | NG例 |
|---|---|---|
| 設置場所 | コンクリート床・堅固な地盤 | 砂利・泥濘・傾斜地 |
| 固定措置 | 足元金具+上部ロープ固定 | 固定なし・片側のみ |
| 安全ブロック | 専用取付枠を用いて設置 | 踏ざんに直接取り付け |
| 補助者 | 脚元に1名以上配置 | 1人での使用 |
| 昇降時の手 | 両手で梯子を保持(3点支持) | 工具・荷物を手に持ちながら |
梯子の「代わり」はこれ!現場条件別・安全な高所作業設備の選び方

足場・高所作業車・ローリングタワー、3つの主要代替手段を比較
「梯子を使わないなら、何を使えばいいの?」という疑問に答えるため、主要な代替手段を整理しました。
| 設備 | 向いている現場 | 費用感 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 仮設足場 | 長期・広範囲作業 | 高め(設置・解体費含む) | 設置に時間がかかる |
| 高所作業車 | 屋外・広い空間 | レンタル料が発生 | 特別教育・技能講習が必要 |
| ローリングタワー | 室内・移動が必要な中高所 | 中程度 | 移動時は必ず降りること |
「良い例・悪い例」で言うと、よくある失敗がこれです。「ローリングタワーなら室内でも使えるだろう」と思って、床面がフラットでない現場に持ち込んでしまうケース。ローリングタワーは水平な床が前提の機材なので、わずかな傾斜や段差でも転倒リスクが一気に高まります。
設備を選んだら終わりではなく、「その設備が使える現場条件か」を確認するのがポイントです。
「スペースも予算も限られている」——小規模・狭小現場の現実的な解決策
大型機器を持ち込めない中小製造業の現場や施設管理の現場では、「足場もローリングタワーも難しい……」という状況は珍しくありません。
そういったケースで現実的な選択肢になるのが、後付け安全補助器具の活用です。
- はしご支持・手すり金具(上部を壁面に固定してガタつきを防ぐ)
- はしご足元安定金具(脚元のスライド・開きを防ぐ)
- 安全ブロック取付枠(踏ざんに直接付けずに済む専用フレーム)
また、製品選びの際に確認してほしいのが認証マークです。JISマーク・SGマーク(製品安全協会)・仮設工業会認定品といった表示がある製品は、安全基準をクリアしていることの証明になります。価格だけで選ばず、必ずこれらのマークを確認してください。
今日から現場で実践!はしご作業の安全対策チェックリスト
使用前チェック!梯子自体の状態確認ポイント
「使う前に確認する」、これだけで防げる事故が本当に多いんです。少し手間に感じるかもしれませんが、ぜひ習慣にしてください。
まず外観の点検から始めます。変形・破損・腐食がないかを目視で確認してください。アルミ梯子は腐食が見えにくいことがあるので、つなぎ目や足部を重点的にチェックします。
次に寸法と機能の確認です。
- 幅が30cm以上あるか(安衛則第527条で定められた最低基準)
- すべり止め装置が正常に機能しているか(劣化していないか)
- 2連・3連タイプの場合、ロック機構が確実に噛んでいるか
そして設置角度です。立て掛け角度は約75度が基本です。この角度がなぜ75度かというと、荷重が最も安定的に分散される角度だからです。
急角度(垂直に近い)すぎると後方への転倒リスクが高まり、緩角度(寝かせすぎ)では脚元が滑りやすくなります。梯子の側面に「角度指示ラベル」が貼ってある製品も多いので、ぜひ活用してください。
最後に先端の突き出し長さ。上端は手がかり部位として60cm以上突き出ていることが望ましいとされています(安衛則第556条第五号の準用)。
設置・昇降時に必ず守るルール
設置・昇降の場面でも守ってほしいことがあります。順番に確認していきましょう。
- 安定した水平・堅固な場所にだけ設置する(雨上がりの地面・砂利・タイル面は危険)
- 転移防止措置(足元固定・上部ロープ固定)を必ず実施してから昇る
- 昇降は「3点支持(両手・両足のうち常に3点を梯子に接触させた状態)」で一段ずつ
- 工具や荷物は手に持たず、腰袋・工具吊りを使う
- 補助者を必ず配置する(スマホを見ながら支えるのはNG)
「皆さんも経験があるかもしれませんが」ついやってしまいがちなのが、荷物を片手に持ちながら昇降することです。本人は「大丈夫」と思っていても、重心がずれた瞬間に体がよろけ、空いている手で梯子を掴もうとしても間に合わない、これが典型的な事故のパターンです。
安全ブロック・墜落制止用器具の正しい選び方と取り付け方
墜落制止用器具(旧称:安全帯)については、2022年1月2日より新規格への移行が完了しています。「安全帯」と表示されたままの旧規格品はすでに使用できません。製品に「墜落制止用器具」と記載されているものを選んでください。
フルハーネス型と胴ベルト型の使い分けは以下の通りです。
- 高さ6.75mを超える箇所での作業: フルハーネス型が義務(2022年1月2日より完全義務化)
- 高さ2m以上6.75m以下: フルハーネス型が原則。墜落時に地面到達のおそれがある場合は胴ベルト型(一本つり)も可
- 建設業の場合は5mを超える箇所でフルハーネス型が推奨
そしてここが特に注意してほしいポイントです。安全ブロックは絶対に梯子の踏ざんに直接取り付けないでください。踏ざんへの直接取り付けは、制止荷重が特定の踏ざんだけに集中し、梯子が破損する重大事故につながります。
必ず「梯子用安全ブロック取付枠」などの専用器具を使ってください。製品をつくる側にいる私が特に強調したい点です。
厚生労働省「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」も併せてご確認いただくことをおすすめします。
梯子の技術は進化している。特殊梯子が変える現場の安全
「普通の梯子では対応できない」現場が増えている
製造現場は年々複雑化しています。プラント内の配管・設備が密集した狭い空間での昇降、傾斜のある屋根への設置、重量物を持ちながらの昇降、こういった用途は、標準的な移動はしごの設計想定を超えていることがほとんどです。
特殊梯子製作所に入社して以来、「こういう現場で安全に昇降したい」という相談を数多くいただきました。普段はあまり脚光を浴びませんが、こういう専門メーカーが日本のものづくりの縁の下の力持ちを担っているんです。
固定はしご・特殊梯子の種類と安全機能
特殊梯子や安全機器の進化は目覚ましいものがあります。代表的なものをご紹介しましょう。
固定はしご(タラップ)
建物・設備に常設するタイプ。移動はしごより安定性が高く、定期的に同じ場所を昇降する用途に適している。
背カゴ付き固定はしご
後方への転落を防ぐ保護柵(背カゴ)を備えたタイプ。高所タンクや塔槽類への昇降に広く使われている。
アウトリガー・スタビライザー付き移動はしご
脚元に張り出しスタビライザーを備え、横方向への転倒リスクを大幅に低減した移動はしご。後付けで装着できる製品も増えている。
安全ブロック取付枠付きシステム梯子
梯子と安全ブロックをセットで設計したシステム型。踏ざんへの直接取り付けが不要で、安全性が担保されている。
固定はしごも「作業床」には該当しないため、昇降以外の用途への使用は原則NGです。ただし、構造上の安定性は移動はしごより高く、背カゴや安全ブロックとの組み合わせで安全性をさらに高めることができます。現場の用途と環境に応じた適切な選択が大切です。
よくある質問(FAQ)
Q:はしごの上での作業は、法律で全面的に禁止されていますか?
完全禁止ではなく「原則禁止」です。移動はしごは労働安全衛生規則上「昇降用設備」であり、作業床ではありません。足場や高所作業車などが設置できない場所的制約がある場合に限り、安全ブロック・転移防止措置・補助者配置などの条件を満たしたうえで使用できます。
Q:高さが低ければ梯子上での作業は問題ないですか?
高さが低くても安全とはいえません。NITEの事故データでは、1〜2m程度の低い高さでも骨折などの重篤な事故が多数発生しています。頭部を負傷すれば低い高さでも死亡に至ることがあります。高さだけでリスクを判断するのは危険です。
Q:現場に足場を設置するスペースがない場合、どうすればよいですか?
まずローリングタワーや高所作業車の可否を検討してください。それも難しい場合は、はしごの例外規定(安全ブロック・補助者・転移防止措置の徹底)を遵守したうえで使用します。判断に迷う場合は、安全衛生コンサルタントや労働基準監督署への相談をおすすめします。
Q:移動はしごの立て掛け角度はなぜ75度なのですか?
75度が最もバランスよく安定する角度とされています。それより急(垂直に近い)と後方への転倒リスクが高まり、緩いと脚元が滑りやすくなります。梯子はちょうど三角形の斜辺のようなもので、この角度で荷重が壁面と床面に最も安定的に分散されます。
Q:フルハーネス型安全帯は梯子作業でも必要ですか?
2022年1月2日より完全義務化されたフルハーネス型墜落制止用器具は、高さ6.75mを超える箇所での作業で義務となります(建設業は5m超)。それ未満でも高さ2m以上の箇所では何らかの墜落制止用器具の使用が推奨されます。また梯子への安全ブロック取り付けは必ず専用取付枠を使用してください。
Q:安全ブロックをはしごの踏ざんに直接取り付けてもよいですか?
絶対にNGです。踏ざんへの直接取り付けは、制止荷重が一点に集中して梯子が破損し、重大事故を招く危険があります。「梯子用安全ブロック取付枠」などの専用器具を必ず使用してください。製品をつくる側の立場から、強くお願いしたいポイントです。
Q:梯子作業の禁止・制限に違反した場合、どのような罰則がありますか?
労働安全衛生法違反として、事業者に是正勧告・指導が入る可能性があります。死傷事故が発生した場合は書類送検や罰金等の対象となりえます。最新の法解釈や具体的な罰則については、労働基準監督署や専門家にご確認ください。
Q:固定はしご(タラップ)にも作業禁止のルールは適用されますか?
固定はしごも「作業床」ではないため、原則として昇降専用です。ただし移動はしごと比較すると構造上の安定性が高く、背カゴや安全ブロックとの組み合わせにより安全性を高めることができます。用途と設置環境に応じた適切な安全対策を講じることが重要です。
まとめ
梯子が「作業禁止(原則)」な理由、ご理解いただけましたか?
一言でまとめると、梯子は”昇り降りする道具”であって”作業する台”ではないということです。それは設計思想の段階から決まっていて、法律も事故データも、その方向性を裏付けています。
製造側にいる私が強調したいのは、禁止は制約ではなく、安全への入口だということです。まず「代替手段(足場・高所作業車・ローリングタワーなど)を使えないか」を必ず検討する。どうしても難しい場合は、4つの安全条件(設置場所・転移防止・安全ブロック・補助者)を全部揃えて使用する。
この判断の流れを今日から現場に持ち帰っていただければ、この記事を書いた甲斐があります。
特殊梯子・安全昇降設備の選定でお悩みの方や、現場の状況に合った安全対策について相談したい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。「こういう現場ではどう対応すればいいか」という具体的なご相談も歓迎です。
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