2025年12月17日
避難はしごの設置義務、正しく理解してる?消防法・建築基準法に基づく、設置場所と点検のポイント
突然ですが、お住まいのマンションや勤務先のビルの「避難はしご」がどこにあるか、すぐに思い浮かびますか?
火災などの緊急時、私たちを安全な場所へ導いてくれる避難はしごは、文字通り「命綱」となる大切な設備です。しかし、その設置義務や点検の重要性について、正しく理解している方は意外と少ないかもしれませんね。
私自身、神戸で生まれ育ち、阪神・淡路大震災を経験したことから、防災や安全設備への関心は人一倍強いものがあります。そして現在、私が所属する特殊梯子製作所は、まさにこの避難はしごを製造している専門メーカーなんです。
この記事では、そんな「ものづくりの現場」にいる技術者の視点から、少し複雑な法律の話をわかりやすく解説していきます。
【この記事の結論】避難はしご設置義務の4つの要点
| 項目 | 結論 |
|---|---|
| 根拠となる法律 | 「消防法」と「建築基準法」の2つの法律で定められている。 |
| 消防法での義務 | 建物の「用途」と「収容人員」に応じて設置義務が発生する。(例:共同住宅は収容人員30人以上の2階以上) |
| 建築基準法での義務 | 「二方向避難」の確保が目的。階段が1つの建物で、代替経路として設置されることが多い。 |
| 最も重要な注意点 | 法律で設置しても、ハッチの上や周囲に物を置くと緊急時に使えず、命に関わるため絶対に避けるべき。 |

避難はしごの設置義務を定める2つの法律とは
「避難はしごの設置」と一言で言っても、実は「消防法」と「建築基準法」という2つの法律が関係しているんです。
この2つは、それぞれ異なる視点から私たちの安全を守るために、避難器具の設置を定めています。
まずは、この違いを理解することが第一歩です。
消防法の役割:「火災時にどう逃げるか」を定める
消防法は、その名の通り「火災」に焦点を当てた法律です。
つまり、「もし火災が発生してしまった場合に、建物内にいる人々がどうやって安全に避難するか」という観点から、消火器やスプリンクラー、そして避難はしごといった「消防用設備」の設置を義務付けています。
消防法では、建物の使い方(用途)や、どれくらいの人が利用するのか(収容人員)によって、必要な避難器具の種類や数が細かく定められています。
これは、火災のリスクや避難の難しさが建物の特性によって変わるためなんです。
ポイント:消防法
- 目的: 火災発生時の人命救助と被害拡大の防止
- 視点: 「どうやって逃げるか」という避難手段の確保
- キーワード: 消防用設備、防火対象物、収容人員
建築基準法の役割:「安全な建物の構造」を定める
一方、建築基準法は、建物を建てる際の基本的なルールを定めた法律です。
つまり、「そもそも安全に避難できる建物とはどのような構造か」という、建物の設計段階からの安全性を確保することが目的です。
建築基準法で特に重要なのが「二方向避難」という考え方です。
これは、火災などでメインの避難経路である階段が使えなくなった場合に備えて、もう一つの異なる方向へ避難できる経路を確保することを義務付けるものです。
マンションのバルコニーにある避難ハッチは、この二方向避難を確保するための代表的な設備というわけです。
ポイント:建築基準法
- 目的: 建築物の安全性の確保
- 視点: 「安全に避難できる構造」の確保
- キーワード: 二方向避難、直通階段、避難上有効なバルコニー
このように、消防法と建築基準法は、それぞれ違う角度からアプローチすることで、私たちの安全を二重に守ってくれているんですね。
機械設計で言うところの「フェイルセーフ(片方が故障しても安全な状態を保つ)」の考え方に似ています。
【消防法】あなたの建物に避難はしごは必要?収容人員と用途で決まる設置基準
それでは、まず消防法に基づく設置基準から具体的に見ていきましょう。
「うちの建物には避難はしごが必要なの?」という疑問に答えるためには、「防火対象物」と「収容人員」という2つのキーワードを理解する必要があります。
まずは確認!「防火対象物」と「収容人員」とは?
防火対象物とは、消防法が適用される建物のことです。
消防法施行令の別表第一で、劇場、店舗、ホテル、共同住宅(マンションやアパート)、病院、工場など、様々な用途に分類されています。
収容人員とは、その建物にどれくらいの人がいるかを算定した人数です。
注意したいのは、「1日の来客数」といった単純な数ではないという点です。
消防法施行規則に基づき、建物の用途ごとに床面積などから計算する方法が決められています。
| 用途 | 収容人員の算定方法の例 |
|---|---|
| 飲食店・店舗 | 従業員数 +(客席部分の床面積 ÷ 3㎡)+(その他の床面積 ÷ 4㎡) |
| 共同住宅 | 居住者の人数(2人/戸 などで算定) |
| 事務所 | 従業員数 +(来客用の応接セット数 × 3人) |
※上記は一例です。正確な算定方法は所轄の消防署にご確認ください。
この「防火対象物の用途」と「収容人員」の組み合わせによって、避難器具の設置義務が発生するかどうかが決まるのです。
用途別・階数別の設置基準をチェックしよう
消防法施行令第25条では、どの階に、何人以上の収容人員がいる場合に避難器具が必要かが定められています。
ここでは、代表的な例をいくつかご紹介します。
| 用途(防火対象物) | 設置が必要となる条件 |
|---|---|
| 病院、福祉施設など | 収容人員 20人 以上の地階・2階以上の階 |
| 共同住宅、ホテルなど | 収容人員 30人 以上の地階・2階以上の階 |
| 店舗、飲食店など | 収容人員 50人 以上の地階・2階以上の階 |
| 工場、事務所など | 収容人員 100人 以上の地階・3階以上の無窓階、または収容人員150人以上の3階以上の有窓階 |
※下階に火災リスクの高い店舗などが入っている場合は、収容人員の基準が厳しくなる(例:10人以上)ことがあります。
※避難階(1階など直接地上へ避難できる階)と11階以上の階には、原則として避難器具の設置義務はありません。
自分の建物がどれに当てはまるか、ぜひ一度確認してみてください。
もし不明な場合は、建物の図面などを持って所轄の消防署に相談するのが最も確実です。
設置できる避難器具の種類と階数制限
「避難器具」と一口に言っても、実は様々な種類があります。
消防庁の告示では、避難はしごの他にも、緩降機(こうこうき)、救助袋、すべり台などが定められています。
そして重要なのが、建物の階数によって設置できる器具が限られているという点です。
| 避難器具の種類 | 設置可能な階の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 吊り下げ式避難はしご | 2階~3階 | バルコニーの手すりなどに引っ掛けて降ろすタイプ。 |
| ハッチ式避難はしご | 2階~10階 | 床のハッチ(蓋)を開けてはしごを降ろすタイプ。マンションで一般的。 |
| 緩降機 | 2階~10階 | 降下速度を調整しながらロープで一人ずつ降りる器具。 |
| 救助袋 | 2階~10階 | 布製の袋の中を滑り降りる器具。病院などで使用される。 |
※病院や福祉施設など、自力での避難が難しい方が利用する建物では、より安全性の高い救助袋などが推奨され、避難はしごが設置できない場合があります。
なぜ階数制限があるのかというと、例えば10階から長いはしごを降りるのは、訓練を受けていない一般の方には非常に困難で危険だからです。
建物の高さや利用する人の特性に合わせて、最も安全な避難器具が選ばれるようになっているんですね。
緊急時にご家族の安全を守る、避難はしご「QQラダー」
ここまで、法律で定められた避難器具の種類について見てきました。特に戸建て住宅やマンションの2階・3階で一般的に使用されるのが「吊り下げ式避難はしご」です。
私たち特殊梯子製作所では、この吊り下げ式避難はしごとして、国家検定にも合格した「QQラダー」を製造・販売しております。

「QQラダー」は、火災や地震といった万が一の災害時、小さなお子様からご年配の方まで、誰もが安全かつ迅速に避難できるよう、数々の工夫を凝らした製品です。
| QQラダーの主な特徴 | 詳細 |
|---|---|
| 抜群の安定性 | 独自のアルミパイプ構造により、「ゆれない・よれない・たわまない」安定した足元を確保します。壁面に接触して揺れを軽減する「突子(とっし)」も備えており、安心して降りることができます。 |
| コンパクトな収納性 | 使用しない時は、約4分の1の大きさに折りたたんで収納可能です。ベッドの下やクローゼットの隙間など、わずかなスペースに保管でき、いざという時にすぐに取り出せます。 |
| 簡単な設置 | 窓枠やベランダの手すりの幅に合わせてフックを調整できる「自在フック」を採用。様々な建物に簡単に設置できます。 |
| 国家検定合格品 | 消防法で定められた基準をクリアした、信頼性の高い製品です。(型式番号:は第24〜2号) |
ご自宅の避難経路に不安を感じている方、より安全な避難器具をお探しの方は、ぜひ一度「QQラダー」をご検討ください。お客様のご要望に応じてフックの調整幅などを変更するオーダーメイドも承っておりますので、お気軽にご相談ください。
【建築基準法】二方向避難と「避難上有効なバルコニー」の関係
次に、建築基準法の視点から見ていきましょう。
こちらでは「二方向避難」という考え方がカギになります。
なぜ「2つの避難経路」が必要なのか?
想像してみてください。
もし火災が起きて、唯一の避難経路である玄関や階段が炎と煙で使えなくなってしまったら…?
考えるだけでも恐ろしいですよね。
こうした最悪の事態を防ぐため、建築基準法施行令第121条では、一定の規模や用途の建物に対して、避難階または地上に通じる直通階段を2つ以上設けることを原則としています。 これが「二方向避難」の基本です。
しかし、マンションや小規模なビルの場合、敷地の問題などで階段を2つ作るのは難しいことが多いのが現実です。
そこで、階段が1つしかなくても、もう一つの避難経路を確保する手段として認められているのが、「避難上有効なバルコニー」とそこに設置される避難はしごなんです。
「避難上有効なバルコニー」と認められるための構造要件
ただバルコニーがあれば良いというわけではありません。
「避難上有効」と認められるためには、いざという時に安全に避難できるための構造要件が定められています。
これは各自治体の条例によって細部が異なる場合がありますが、一般的には以下のような基準があります。
- 大きさ: 奥行きが有効寸法で75cm以上、幅が150cm以上など、避難器具の操作や一時的な待機に十分なスペースがあること。
- 出入口: 室内からバルコニーへ出る開口部の幅が75cm以上、高さが180cm以上など、スムーズに出入りできること。
- 避難器具: 避難ハッチなどの避難器具が適切に設置されていること。
- 隣戸への経路: 隣の住戸との間にある「隔て板(へだていた)」は、緊急時に破って隣へ避難できる構造であること。
これらの基準は、緊急時に人々がパニックにならず、安全かつ確実に避難できるように、細かく計算されて決められています。
私たちが製品を開発する際も、こうした法的要件を満たしつつ、さらに使いやすさを向上させるための工夫を凝らしています。
【プロの視点】コラム:避難はしご開発の現場から
ここで少し、私たちのようなメーカーが普段どんなことを考えて製品を作っているのか、その舞台裏をお話しさせてください。
「誰でも、確実に使える」を実現する技術的工夫
避難はしごは、一生に一度使うか使わないかの設備かもしれません。
しかし、「いざ」というその一度のために、私たちは100%の信頼性を追求しています。
開発の現場で最も大切にしているのは、「誰でも、直感的に、確実に使える」ということです。
例えば、マンションでよく見かけるハッチ式の避難はしご。
あの蓋を開ける操作は、緊急時で焦っている時でも迷わないよう、できるだけ少ないアクションで開けられる構造になっています。
また、はしごを降ろす際も、ロックを一つ外すだけでスムーズに展張できるよう、バネの力やリンク機構を工夫しているんですよ。
材質にもこだわります。
屋外に設置されることが多いので、雨風にさらされても錆びにくいステンレス鋼や、アルミ合金に特殊な表面処理を施した材料を使っています。
踏み桟(足をかける部分)の形状も、滑りにくく、かつ体重をしっかり支えられる強度を持つよう、何度もシミュレーションと強度試験を繰り返して設計されています。
普段は床の下に隠れていて目立たない存在ですが、その中には、人の命を守るための技術と工夫、そして「万が一の時も絶対に大丈夫」という私たちの想いが詰まっているんです。
「いざ」という時に使えなければ意味がない!点検・維持管理の実践ポイント
どんなに優れた避難はしごも、いざという時に使えなければ意味がありません。
そのため、法律で定められた点検と、日常的な維持管理が非常に重要になります。
法律で定められた点検の種類と頻度
消防法第17条の3の3に基づき、建物の所有者や管理者は、設置された消防用設備を定期的に点検し、その結果を消防署に報告する義務があります。
避難器具の点検は、大きく分けて2種類です。
| 点検種別 | 頻度 | 主な点検内容 |
|---|---|---|
| 機器点検 | 6ヶ月に1回 | ・外観の確認(変形、腐食、錆などがないか) ・標識が適切に設置されているか ・部品の脱落や緩みがないか |
| 総合点検 | 1年に1回 | ・機器点検の内容に加えて、実際に避難器具を操作してみる ・ハッチの開閉、はしごの展張、格納などがスムーズにできるか |
これらの点検は、消防設備士などの専門資格を持つ人が行う必要があります。
点検結果は、建物の用途に応じて1年または3年に1回、消防長または消防署長への報告が必要です。
自分でできる!日常チェックリスト
専門家による法定点検とは別に、建物の管理者や居住者の皆さんが日常的にできることもたくさんあります。
これが、いざという時の生死を分けることにも繋がります。
- [ ] 避難ハッチの上や周囲に物を置いていないか?
- 植木鉢や物置、自転車などを置くのは絶対にやめましょう。緊急時に蓋が開けられず、避難経路が塞がれてしまいます。
- [ ] 降下地点(下の階のバルコニーや地面)に障害物はないか?
- はしごを降ろすスペースに物があると、安全に降りられません。
- [ ] 隣の部屋との間の「隔て板」の前に物を置いていないか?
- 隔て板は緊急時に破って隣へ避難するためのものです。通路を確保しておきましょう。
- [ ] 「避難器具」の標識は見やすい状態か?
- 標識が汚れたり隠れたりしていないか確認しましょう。
特に「避難ハッチの上に物を置く」のは、消防点検で最も多く指摘される事項の一つです。
「ちょっとだけなら」という油断が、取り返しのつかない事態を招く可能性があります。
耐用年数と交換の目安は?
避難はしごにも寿命があります。
税法上の「法定耐用年数」は8年とされていますが、これはあくまで減価償却のための期間です。
適切にメンテナンスされていれば、実際の使用に耐える「物理的耐用年数」は25年~30年程度とされています。
ただし、設置環境によっては劣化が早く進むこともあります。
以下のようなサインが見られたら、交換を検討する時期かもしれません。
- ハッチの蓋や本体に、錆や腐食が目立つ
- 蓋の開閉がスムーズにいかない、ガタつきがある
- 蓋の周りのパッキンが劣化し、雨水が浸入している
- 法定点検で、専門業者から不具合を指摘された
長期修繕計画を立てる際には、25年程度での交換を目安に組み込んでおくと安心ですね。
よくある質問(FAQ)
Q1: 避難はしごは何階から設置が必要ですか?
A1: 消防法では、建物の用途と収容人員によって決まります。例えば、共同住宅(マンション等)では収容人員30人以上の2階以上の階に設置義務があります。また、建築基準法では、階段が一つしかない建物で「二方向避難」を確保するために、階数に関わらず設置される場合があります。
Q2: マンションの避難はしごは誰が点検するのですか?
A2: 点検義務は建物の所有者・管理者にありますので、マンションの場合は管理組合が主体となって消防設備点検業者に委託して実施するのが一般的です。点検時には住戸内への立ち入りが必要になるため、居住者の協力が不可欠です。
Q3: 避難ハッチの上に物を置いてはいけない理由は?
A3: 緊急時にハッチが開けられず、自分だけでなく上階から避難してくる人の命綱をも断ってしまうことになるからです。火災時は一刻を争います。物をどかす時間はありません。消防法でも禁止されており、点検時の指摘事項となります。
Q4: 避難はしごの耐用年数は何年ですか?
A4: 法定耐用年数は8年ですが、これは税務上の目安です。適切に維持管理されていれば、物理的には25年~30年程度使用可能とされています。ただし、錆や不具合が見られる場合は、年数に関わらず交換が必要です。
Q5: 消防法と建築基準法の違いは何ですか?
A5: 消防法は「火災が起きた時にどう逃げるか」という避難手段の確保を目的とし、建築基準法は「そもそも安全に避難できる建物の構造」を目的としています。両方の法律の基準を満たすことで、より高い安全性が確保されます。
まとめ
今回は、避難はしごの設置義務について、消防法と建築基準法という2つの法律の側面から解説しました。
- 消防法は、建物の用途と収容人員に応じて、火災時の避難手段として設置を義務付けています。
- 建築基準法は、二方向避難の原則に基づき、安全な建物の構造として設置を求めています。
そして、どんなに立派な設備も、設置後の定期的な点検と、ハッチの上に物を置かないといった日常的な維持管理がなければ、いざという時に何の役にも立ちません。
避難はしごは、普段は静かにその時を待つ、縁の下の力持ちのような存在です。
私たち製造者は、その「万が一の時」に確実に機能するよう、責任と誇りを持って製品を送り出しています。
この記事をきっかけに、ぜひ一度、ご自身の住まいや職場の避難器具がどこにあるか、そしてすぐに使える状態になっているかを確認してみてください。
その小さな関心が、あなたとあなたの大切な人の命を守る第一歩になるはずです。
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